MANAGEMENT ISSUE

今回の経営課題

「ブランド価値を高める」「おもてなしの心を育てる」「地域と共生する」。どれも大事な言葉ですが、化け物の絵です。誰も「似ていない」と言えません。一方、「リピート率」「清掃の完了時刻」「口コミの返信までの時間」は犬馬です。誰でも照らし合わせて、違えば違うと分かります。

韓非がこの話を置いたのは、確かめようのない壮大なことを語る者ほど楽に弁舌をふるえる、という警戒からです。

漢文原文

『韓非子』外儲說左上(第19段「犬馬難く鬼魅易し」の説話)の原文

客有爲齊王畫者,齊王問曰:「畫孰最難者?」曰:「犬馬難。」「孰易者?」對曰:「鬼魅最易。」夫犬馬,人所知也,旦暮罄於前,不可類之,故難。鬼魅,無形者,不罄於前,故易之也。

出典:『韓非子』外儲說左上(第19段「犬馬難く鬼魅易し」の説話)/維基文庫固定版 2327662 原文と版情報を確認 ↗

読み下し文

犬馬は難く、鬼魅は易しの読み下し

客に齊王の爲に畫く者有り。齊王問ひて曰はく、「畫くこと孰か最も難き者ぞ」と。曰はく、「犬馬難し」と。「孰か易き者ぞ」と。對へて曰はく、「鬼魅最も易し」と。夫れ犬馬は、人の知る所なり。旦暮前に罄はれ、之に類すべからず、故に難し。鬼魅は、形無き者にして、前に罄はれず、故に之を易しとするなり。

  • 読み「罄」は「見(あらは)る」の意で、目の前に現れること。

読み下しは、掲載した原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。漢字は原文の字体を保ち、送り仮名は歴史的仮名遣いです。訓読には異なる読み方があります。

現代語訳

犬馬は難く、鬼魅は易しを現代の言葉で読む

客で斉王のために絵を描く者がいた。斉王が問うた。「描くのに何が一番難しいか。」「犬と馬が難しい。」「何が易しいか。」答えた。「鬼や化け物が一番易しい。」犬と馬は、人の知っているものである。朝夕目の前に現れ、そっくりには描けない。だから難しい。鬼や化け物は、形のないもので、目の前に現れない。だから易しいとするのだ。

掲載した読み下し文の流れを追えるよう、平易な現代語に訳しています。現代の組織へそのまま適用するのではなく、本文の考え方を理解するための訳です。

WORDS & CONTEXT

語句と背景

齊王

斉の王。どの王かは書かれていません。

鬼魅(きみ)

鬼と化け物。形の定まらないもののことです。

罄(けい)

本データの読み下しの注にあるとおり、ここでは「見(あらわ)る」の意に取り、目の前に現れることとしました。

類す

似せる、そっくりに描くこと。

背景

絵の話ですが、韓非がこの話を外儲説左上に置いた意図は、言論の話です。実際にあるものについて語れば、誰でも照らし合わせて正しいかどうか判定できる。実際にないもの、確かめようのないことについて語れば、どんなことを言っても間違いだと言われない。だから、確かめようのない壮大なことを語る者ほど、楽に弁舌をふるえる。

韓非が繰り返し警戒するのは、この「確かめようのない言葉」です。先王の道や高遠な理想を語る者は、化け物を描く画家のようなもので、誰も「似ていない」と言えないから、いくらでも語れる。君主はそうした言葉を貴ばず、犬や馬のように照らし合わせられる言葉、つまり実績で確かめられる言葉を取れ、という考えです。「買櫝還珠」(本データ hanfeizi/c32 第8段)とあわせて、外儲説左上の主題がよく見える短い話です。

本文の解説

確かめようのないことを語る者ほど、楽に弁舌をふるえる

斉王のために絵を描く客に、王が「何を描くのが一番難しいか」と問うと、客は「犬と馬です」と答えます。「何が一番易しいか」と問うと、「鬼や化け物です」と答えます。犬と馬は誰でも知っていて、朝夕目の前に現れるので、そっくりに描けない。だから難しい。鬼や化け物は形がなく、目の前に現れないので、易しいのだ、と(第19段)。

原文を読む

  • 「犬馬難し」「鬼魅最も易し」(第19段)――答えは意外です。ありふれた犬や馬が難しく、誰も見たことのない化け物が易しい。
  • 「夫れ犬馬は、人の知る所なり。旦暮前に罄はれ、之に類すべからず、故に難し」(第19段)――犬や馬は誰もが毎日見ている。だから少しでも違えば「似ていない」と分かる。
  • 「鬼魅は、形無き者にして、前に罄はれず、故に之を易しとするなり」(第19段)――化け物には比べる実物がない。どう描いても「違う」と言われない。だから易しい。

要点

  • 画家が「犬や馬が一番難しく、化け物が一番易しい」と答えた話です。犬や馬には比べる実物があり、化け物にはないからです。
  • 確かめようのないことを語る者ほど楽に弁舌をふるえる、という言論への警戒が、この話の意図です。
  • 君主は照らし合わせて確かめられる言葉を取れ、という外儲説左上の主題の一つです。

INTERPRETATION

AI時代の経営への読み替え

AIは鬼魅を描くのが得意です。「顧客体験の向上」「持続可能な観光」といった言葉を、いくらでも美しく並べられます。経営者がそれを「よく書けている」と受け取ると、誰も間違いを指摘できない計画が通ります。

犬馬に直す作業は人の仕事です。その言葉は、どの数字で確かめられるか。確かめられないなら、確かめられる形に言い換えるか、目標から外す。AIに「この目標を測れる指標に直せ」と頼むこともできますが、どの指標を本物と認めるかは経営者が決めます。

LODGING & TOURISM

宿泊・観光の現場例

「お客様に感動を」という目標を掲げ続けた施設が、何年たっても評価のしようがなく、スタッフも何をすればよいか分からなかった、という例があったとします。「口コミで名前を挙げられたスタッフの数」に直したら、動きが変わりました。

コンサルタントの提案書が鬼魅ばかりで埋まっていたら、犬馬を一つ入れてもらうよう頼むことです。

現場例は、支援内容を考えるための提案例であり、実在する顧客施設の運用実績ではありません。

TRY TOMORROW

明日から試せる問い・行動

鬼魅を、点検する

  1. 確かめようのない目標は何か。経営計画の言葉を一つずつ見る。
  2. それを犬馬に直す。どの数字、どの記録で確かめるかを添える。
  3. 比べる実物は何か。「旦暮前に罄はれ」、毎日目の前に現れるものを指標にする。

化け物を描くのは易しい。だから、犬馬を描く人を評価することです。

SOURCE & NOTES

出典・版・注記

  • 原文:維基文庫「韓非子/外儲說左上」固定版 2327662(ページ、固定版、履歴)。原著(韓非『韓非子』)はパブリックドメイン。電子テキストの編集上の寄与は CC BY-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/)。
  • 原文への変更:本文を抽出し、表示用記法・空白を整理。小見出しを保持し、異読をnotesへ分離。
  • 読み下し文:本データで原文から新たに作成したもので、既存の訳注書の転載ではない。状態:draft_unreviewed(未校閲)。CC BY-SA 4.0。

読み下し・現代語訳・本文解説・経営解釈:宿泊DXラボ。読み下し・現代語訳・解説は原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。古典の訓読と解釈には異なる見方があります。

編集:宿泊DXラボ。