MANAGEMENT ISSUE

今回の経営課題

「あの旅館は接客が悪いらしい」という噂が、別々の三人から聞こえてくる。社内で、出張中の支配人の悪評が三つ重なる。人は、同じ話を三度聞くと信じます。中身を確かめたからではなく、回数が重なったからです。

龐蔥は王に、讒言は回数で本当になる、だから察してほしいと頼みました。王は「分かっている」と答えました。それでも龐蔥は会ってもらえませんでした。予告しても、人は回数に負けます。

漢文原文

『戰國策』魏二「龐蔥與太子質於邯鄲」の原文

龐蔥與太子質於邯鄲,謂魏王曰:「今一人言市有虎,王信之乎?」王曰:「否。」「二人言市有虎,王信之乎?」王曰:「寡人疑之矣。」「三人言市有虎,王信之乎?」王曰:「寡人信之矣。」龐蔥曰:「夫市之無虎明矣,然而三人言而成虎。今邯鄲去大梁也遠於市,而議臣者過於三人矣。願王察之矣。」王曰:「寡人自為知。」於是辭行,而讒言先至。後太子罷質,果不得見。

出典:『戰國策』魏二「龐蔥與太子質於邯鄲」/維基文庫固定版 2458685 原文と版情報を確認 ↗

読み下し文

三人成虎の読み下し

龐蔥太子と邯鄲に質たり、魏王に謂ひて曰はく、「今一人市に虎有りと言はば、王之を信ずるか」と。王曰はく、「否」と。「二人市に虎有りと言はば、王之を信ずるか」と。王曰はく、「寡人之を疑はん」と。「三人市に虎有りと言はば、王之を信ずるか」と。王曰はく、「寡人之を信ぜん」と。龐蔥曰はく、「夫れ市の虎無きこと明らかなり。然り而して三人言ひて虎を成す。今邯鄲の大梁を去るや市より遠く、而して臣を議する者は三人に過ぎん。願はくは王之を察せよ」と。王曰はく、「寡人自ら知るを為さん」と。是に於いて辭して行き、而して讒言先に至る。後太子質を罷むるも、果たして見ゆるを得ず。

  • 読みいわゆる「三人成虎」の故事。『韓非子』内儲說上篇では「龐恭」に作る。

読み下しは、掲載した原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。漢字は原文の字体を保ち、送り仮名は歴史的仮名遣いです。訓読には異なる読み方があります。

現代語訳

三人成虎を現代の言葉で読む

龐蔥が太子とともに邯鄲へ人質に行くことになり、魏王に言った。「いま一人が『市場に虎がいる』と言ったら、王はそれを信じますか。」王は言った。「信じない。」「二人が『市場に虎がいる』と言ったら、信じますか。」王は言った。「疑うだろうな。」「三人が『市場に虎がいる』と言ったら、信じますか。」王は言った。「信じるだろう。」龐蔥は言った。「市場に虎がいないことは明らかです。それでも三人が言えば虎ができあがってしまう。いま邯鄲は、大梁からの距離が市場よりはるかに遠く、私のことをあれこれ言う者は三人より多いでしょう。どうか王はよく見きわめてください。」王は言った。「私は自分で判断する。」そこで龐蔥は別れを告げて出発したが、讒言のほうが先に届いた。のちに太子は人質を解かれて帰ったが、龐蔥は結局王に会うことができなかった。

掲載した読み下し文の流れを追えるよう、平易な現代語に訳しています。現代の組織へそのまま適用するのではなく、本文の考え方を理解するための訳です。

WORDS & CONTEXT

語句と背景

龐蔥(ほうそう)

魏の臣。『韓非子』内儲説上篇では「龐恭(ほうきょう)」と書かれており、同じ話の別伝です。

太子質於邯鄲

戦国時代、国同士の約束の担保として、太子などを相手国に住まわせることがありました。それが「質(人質)」です。

邯鄲(かんたん)

趙の都。

大梁(たいりょう)

魏の都。現在の河南省開封の付近です。

讒言(ざんげん)

人を陥れるための、事実をゆがめた告げ口。

背景

この話は『韓非子』内儲説上篇にも載っています(本データ hanfeizi/c30 第18段)。そこでは王の答えが「信じない」「信じない」「信じる」の二段階で、「自分で判断する」の一言もありません。『韓非子』はこの話を「衆端参観」、つまり君主は複数の筋から情報を照らし合わせて聞くべきだという論の例話として使い、同篇の総論では「明主は……一市の患ひを察す」と要約しています(同 第2段)。『戦国策』の方は、龐蔥という一人の臣が讒言に敗れていく物語として読ませる作りになっています。

本文の解説

予告して頼んでも、讒言には勝てなかった

魏の龐蔥(ほうそう)は、太子のお供として趙の都・邯鄲に人質として赴くことになりました。出発にあたって魏王に尋ねます。「一人が『市場に虎がいる』と言ったら、王は信じますか。」「信じない。」「二人なら。」「疑うだろう。」「三人なら。」「信じる。」龐蔥は言います。市場に虎がいないことは明らかなのに、三人が言えば虎ができてしまう。邯鄲は市場よりずっと遠く、私を悪く言う者は三人より多いはずです。王はよく見きわめてください、と。王は「自分で判断する」と答えましたが、龐蔥が出発すると讒言が先に届き、のちに太子の人質が解かれても、龐蔥は王に会うことができませんでした。

成語「三人成虎」の出典です(第29段)。

原文を読む

  • 「否」「寡人之を疑はん」「寡人之を信ぜん」(第29段)――一人、二人、三人と増えるにつれて王の答えが三段階に変わります。王自身の口から「数がそろえば信じる」と言わせる、問答の組み立てです。
  • 「夫れ市の虎無きこと明らかなり。然り而して三人言ひて虎を成す」(第29段)――ありえないことでも、言う人の数で「事実」になる。この一句が成語の核です。
  • 「邯鄲の大梁を去るや市より遠く、而して臣を議する者は三人に過ぎん」(第29段)――譬えを自分の身に重ねます。遠く離れた人質先からは弁明もできず、悪口を言う者は三人どころではない、と。
  • 「寡人自ら知るを為さん」(第29段)――王は「自分で判断する」と請け合います。ところがこのあと讒言に流されるので、この一言は皮肉として響きます。
  • 「讒言先に至る」「果たして見ゆるを得ず」(第29段)――結末は二つの短い句で片づけられます。龐蔥の予言どおりになったことを、淡々と記しています。

要点

  • 「三人成虎」の出典はこの魏策二の一節で、人質として赴く龐蔥が魏王に讒言への警戒を求めた話です。
  • 王は「三人なら信じる」と認めながら「自分で判断する」と請け合い、結局は讒言に流されました。
  • 『韓非子』内儲説上篇は同じ話を、君主が情報を照らし合わせて聞くべきだという論の例として使っています。

INTERPRETATION

AI時代の経営への読み替え

口コミサイト、SNS、そしてAIが要約する「多くの声」。AIは「多くの利用者が〜と評価しています」とまとめます。それが三人の同じ話なのか、三十人の別々の経験なのかは、要約からは分かりません。回数ではなく、裏付けで判断する習慣が、以前より必要になりました。

社内の噂も同じです。不在の人、離れた拠点の責任者、新しく来た人は、讒言の的になりやすい。龐蔥の敗北から学ぶなら、「察せよ」と頼まれる前に、不在の人の評価は本人に確かめてから決める、と自分に決めておくことです。

LODGING & TOURISM

宿泊・観光の現場例

ある施設の悪評が地域で三度聞こえてきて、取引を控えた同業者が、あとで元は一人の退職者の話だったと知る、という例があったとします。三人が言ったのではなく、一人の話が三人を通ったのです。

社内では、出張の多い支配人や、他店舗から来た責任者について「あの人は現場を見ていない」という声が重なることがあります。本人に確かめず、回数で判断すると、龐蔥と同じことが起きます。

現場例は、支援内容を考えるための提案例であり、実在する顧客施設の運用実績ではありません。

TRY TOMORROW

明日から試せる問い・行動

虎を、確認する

  1. 最近信じた噂の根拠は何か。何人から聞いたかではなく、誰が見たかを問う。
  2. 回数以外の裏付けはあるか。数字、記録、本人の言い分。
  3. 不在の人の悪評を、本人に確かめてから判断しているか。

龐蔥は負けました。負けないためには、予告ではなく、自分の判断の手順を変えるしかありません。

SOURCE & NOTES

出典・版・注記

  • 原文:維基文庫「戰國策 (士禮居叢書本)/魏/二」固定版 2458685(ページ、固定版、履歴)。原著(劉向 編『戰國策』)はパブリックドメイン。電子テキストの編集上の寄与は CC BY-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/)。
  • 原文への変更:本文を抽出し、姚本・鮑本・札記等の注釈と注釈行を除去。策ごとの見出しをsection_titleに分離し、校記をnotesへ分離。
  • 読み下し文:本データで原文から新たに作成したもので、既存の訳注書の転載ではない。状態:draft_unreviewed(未校閲)。CC BY-SA 4.0。

読み下し・現代語訳・本文解説・経営解釈:宿泊DXラボ。読み下し・現代語訳・解説は原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。古典の訓読と解釈には異なる見方があります。

編集:宿泊DXラボ。