MANAGEMENT ISSUE
今回の経営課題
賞与の配分、まかないの量、シフトの希望の通り方、表彰で名前を挙げる順番。経営者から見れば小さな差が、受けた側には「自分だけ回らなかった羹」になります。中山君は、一杯の羊羹で国を失いました。
同じ話の後半では、一壺の飯が二人の士を生みました。与えることは量ではなく、困っているときに当たるかどうか。怨みは深さではなく、心を傷つけるかどうか。中山君の嘆きは、人の扱いの原則として読めます。
漢文原文
『戰國策』中山「中山君饗都士」の原文
中山君饗都士,大夫司馬子期在焉。羊羹不遍,司馬子期怒而走於楚,說楚王伐中山,中山君亡。有二人挈戈而隨其後者,中山君顧謂二人:「子奚為者也?」二人對曰:「臣有父,嘗餓且死,君下壺飡餌之。臣父且死,曰︰『中山有事,汝必死之。』故來死君也。」中山君喟然而仰歎曰:「與不期眾少,其於當厄;怨不期深淺,其於傷心。吾以一杯羊羹亡國,以一壺飡得士二人。」出典:『戰國策』中山「中山君饗都士」/維基文庫固定版 2458609 原文と版情報を確認 ↗
読み下し文
一杯の羊羹、国を亡ぼすの読み下し
中山君都士を饗す。大夫司馬子期焉に在り。羊羹遍からず、司馬子期怒りて楚に走り、楚王に說きて中山を伐たしめ、中山君亡ぐ。二人戈を挈げて其の後に隨ふ者有り。中山君顧みて二人に謂ふ、「子は奚をか為す者ぞや」と。二人對へて曰はく、「臣に父有り、嘗て餓ゑて且に死せんとす。君下りて壺飡もて之に餌す。臣の父且に死せんとして、曰はく、『中山に事有らば、汝必ず之に死せよ』と。故に來たりて君に死するなり」と。中山君喟然として仰ぎ歎じて曰はく、「與ふるは眾少を期せず、其れ厄に當たるに於いてす。怨みは深淺を期せず、其れ心を傷つくるに於いてす。吾一杯の羊羹を以て國を亡ひ、一壺の飡を以て士二人を得たり」と。
- 校記篇題注:[校一]此篇姚本與《主父欲伐中山》連篇,鮑本分為兩篇。據文義,從鮑本。
- 読み「一杯羊羹亡國」の故事。
読み下しは、掲載した原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。漢字は原文の字体を保ち、送り仮名は歴史的仮名遣いです。訓読には異なる読み方があります。
現代語訳
一杯の羊羹、国を亡ぼすを現代の言葉で読む
中山君が都の士をもてなした。大夫の司馬子期がその場にいた。羊の羹が行き渡らず、司馬子期は怒って楚に走り、楚王を説いて中山を伐たせ、中山君は逃げた。戈を持って後ろについてくる二人がいた。中山君は振り返って二人に言った。「おまえたちは何をする者か。」二人は答えた。「私たちには父がいて、かつて餓えて死にそうになりました。君が車を降りて壺の飯を食べさせてくださいました。父は死にそうなとき、『中山に事があれば、おまえは必ずこれに死ね』と言いました。だから来て、君のために死ぬのです。」中山君は天を仰いで嘆いて言った。「与えることは多い少ないではない。困っているときに当たるかどうかだ。怨みは深い浅いではない。心を傷つけるかどうかだ。私は一杯の羊羹で国を失い、一壺の飯で二人の士を得た。」
掲載した読み下し文の流れを追えるよう、平易な現代語に訳しています。現代の組織へそのまま適用するのではなく、本文の考え方を理解するための訳です。
WORDS & CONTEXT
語句と背景
中山君
中山の君主。中山は趙の北にあった小国で、のちに趙に滅ぼされます。
都士
都にいる士たち。
司馬子期(しばしき)
中山の大夫。
羊羹(ようこう)
羊の肉の吸い物。日本の菓子の羊羹とは別物です。
戈(か)
柄の先に横向きの刃をつけた武器。
壺飡(こさん)
壺に入れた飯。
背景
羊羹が一人分足りなかったために国を失う、という結末は極端ですが、中山君の嘆きはその極端さを引き受けています。与える量が問題ではない、困っているときに当たるかが問題だ。怨みの深さが問題ではない、心を傷つけるかが問題だ。宴席で一人だけ羹が来なかった司馬子期は、恥をかかされた、つまり心を傷つけられたのです。
この話は人情の話として読まれますが、君主の側から見れば、小さな不公平が思わぬ大きさの怨みを生む、という警告でもあります。『韓非子』は、君主が賞罰を厳格に行うべきことを繰り返し説きますが、その理由の一つは、与える・与えないの不均衡が臣下の怨みを生むからでした。中山君の失敗は、賞罰を誤ったというより、分け前の一つに気づかなかったという、もっと小さなことです。それでも国が亡んだ、と『戦国策』は言います。
本文の解説
与えることも怨みも、量ではなく相手の状況と心に関わる
中山の君が都の士をもてなす宴で、大夫の司馬子期にだけ羊の羹が回りませんでした。司馬子期は怒って楚に走り、楚王を説いて中山を攻めさせ、中山君は逃げます。戈を持って後をついてくる二人がいて、中山君が「おまえたちは何者か」と問うと、二人は答えます。「私たちの父が餓えて死にそうだったとき、君が降りて来て壺の飯を食べさせてくださった。父は死ぬ間際に『中山に事があれば必ず命を捧げよ』と言った。だから来て君のために死ぬのです。」中山君は天を仰いで嘆きます。「与えることは量の多少ではなく、困っているときに当たるかどうかだ。怨みは深い浅いではなく、心を傷つけるかどうかだ。私は一杯の羊羹で国を失い、一壺の飯で二人の士を得た。」と嘆きます(第15段)
「一杯の羊羹、国を亡ぼす」の故事です。
原文を読む
- 「羊羹遍からず、司馬子期怒りて楚に走り」(第15段)――話の起点です。羹が一人分足りなかった、それだけのことで大夫が国を売ります。
- 「中山に事有らば、汝必ず之に死せよ」(第15段)――飯をもらった父の遺言です。一壺の飯の恩を、息子たちに受け継がせています。
- 「與ふるは眾少を期せず、其れ厄に當たるに於いてす。怨みは深淺を期せず、其れ心を傷つくるに於いてす」(第15段)――中山君の嘆きの前半です。与えることと怨みを対にして、どちらも量ではなく、相手の状況と心に関わる、と言います。
- 「吾一杯の羊羹を以て國を亡ひ、一壺の飡を以て士二人を得たり」(第15段)――後半です。一杯と一壺という、同じくらい小さなものが、一方は国を失わせ、一方は命を捧げる士を得させました。
要点
- 中山君が宴で司馬子期に羊羹を回し忘れて国を失い、昔飯を与えた男の二人の息子に命を捧げられた話です。「一杯の羊羹、国を亡ぼす」の故事です。
- 与えることも怨みも量ではなく、相手の状況と心に関わる、という中山君の嘆きが話の芯です。
- 小さな不公平が思わぬ大きさの怨みを生む、という君主への警告としても読めます。
INTERPRETATION
AI時代の経営への読み替え
シフトの最適化や賞与の計算はAIで公平にできます。しかし「遍からず」、つまり一人だけ行き渡らなかったことに気づくのは、人の目です。計算上の公平と、受けた側の感覚は別です。
もう一つ、困っているときの一声です。病気のとき、家族のこと、金銭のこと。そのときの対応は、金額ではなく「厄に当たる」かどうかで覚えられます。壺の飯の価値は、飯ではなく、死にかけているときに降りてきた君の姿にありました。
LODGING & TOURISM
宿泊・観光の現場例
宴会後のまかないが一人分足りず、その人が数か月後に辞めた、という話は笑い話ではありません。表彰式で一人だけ名前が漏れた、といった例もあります。司馬子期は怒って楚へ行きました。
一方で、家族の急病で休んだスタッフに経営者が自分で連絡し、シフトを引き受けた施設では、そのスタッフが繁忙期の無理な依頼を断らなくなった、という例があります。一壺の飯です。
現場例は、支援内容を考えるための提案例であり、実在する顧客施設の運用実績ではありません。
TRY TOMORROW
明日から試せる問い・行動
羹の配りを、点検する
- 行き渡らなかったものはないか。賞与、まかない、休み、名前。一人だけ漏れた人を探す。
- 厄に当たった人に、何をしたか。この一年で困っていた人と、そのときの自分の行動を思い出す。
- 心を傷つけた怨みはないか。本人は言いません。周りに聞く。
「與ふるは眾少を期せず」。多く与えるより、漏らさないことです。
SOURCE & NOTES
出典・版・注記
- 原文:維基文庫「戰國策 (士禮居叢書本)/中山」固定版 2458609(ページ、固定版、履歴)。原著(劉向 編『戰國策』)はパブリックドメイン。電子テキストの編集上の寄与は CC BY-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/)。
- 原文への変更:本文を抽出し、姚本・鮑本・札記等の注釈と注釈行を除去。策ごとの見出しをsection_titleに分離し、校記をnotesへ分離。
- 読み下し文:本データで原文から新たに作成したもので、既存の訳注書の転載ではない。状態:draft_unreviewed(未校閲)。CC BY-SA 4.0。
読み下し・現代語訳・本文解説・経営解釈:宿泊DXラボ。読み下し・現代語訳・解説は原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。古典の訓読と解釈には異なる見方があります。
編集:宿泊DXラボ。