「DXを進めたほうがいい」と言われても、旅館やホテルの現場では、何から手をつければよいのかが分かりにくいものです。システムを入れることがDXなのか、どの業務から見直すべきなのか。このページでは、宿泊DXの意味と、最初の一歩を選ぶための考え方を、宿泊DXラボの診断と公的統計の分析をもとに整理します。
宿泊DXとは
宿泊DXとは、予約・客室・清掃・会計・勤怠といった日々の業務と経営の判断を、データとデジタルの道具で見直していくことです。
宿泊DXには、2つの層があります。
- 業務のデジタル化紙の台帳、口頭や電話での連絡、同じ情報の転記といった手作業を減らし、スタッフが接客や準備に使える時間を増やします。
- データで判断する仕組み稼働率、ADR(販売した客室1室あたりの平均単価)、RevPAR(販売できる客室1室あたりの客室売上)、予約経路ごとの売上などを、毎週同じ定義で確認し、料金や販売、人員配置の判断に使います。
新しいシステムを入れること自体が目的ではありません。システムを増やした結果、かえって二重入力が増えることもあります。どの業務に、どれだけ手間がかかっているかを先に確かめることが、宿泊DXの出発点です。
何から始めるか:3つの段階
宿泊DXラボの「DXかんたん診断」は、経営、予約・販売、会計、業務(清掃・チェックイン前後)、勤怠・シフト、システム、集客、データ活用の8つのカテゴリで現状を確かめます。その設問と改善施策の考え方をもとに、取り組みの順番を3つの段階に分けます。
段階1:手間のかかっている業務を書き出す
最初は、道具を選ぶ前に、今の業務を見える形にします。
- 紙・口頭・電話で行っている業務を3つ書き出す(例:清掃の指示と完了報告、フロントと調理場の連絡)
- 売上が会計に届くまでに、何回手入力しているかを数える
- シフトの作成と勤怠の集計に、毎月どれくらいの時間がかかっているかを測る
ここで出てきた業務が、改善の候補になります。時間を測っておくと、あとで改善の効果を確かめることもできます。
段階2:二重入力をなくす
次に、同じ情報を何度も入力している箇所を減らします。
- PMS(予約・客室管理システム)、会計、予約サイト、勤怠など、使っている仕組みのつながりを1枚の図にする
- 同じ予約や売上を、複数のシステムへ入力していないかを確認する
- 各システムがCSVやAPIで連携できるかを把握する
予約から部屋割り、客室の状況表までがどうつながるかは、ラボの「簡易PMSデモ」で、架空のホテルを使ってブラウザ上で試せます。
段階3:数字で判断する
業務の手間が減ってきたら、判断に使う数字を決めます。
- 毎週見る数字を3〜5個に絞る(例:稼働率、ADR、RevPAR、予約ペース)
- 予約経路ごとの売上と手数料を並べ、OTA(予約サイト)と自社予約の採算を比べる
- 数字を見たあとに、誰が何を決めるかを決めておく
数字を集めること自体ではなく、料金や販売、人員配置の判断に使える状態にすることが目的です。
施設の規模によって、最初の一歩は変わる
観光庁の宿泊旅行統計調査も、施設を客室数で区分しています(1〜19室、20〜199室、200室以上)。規模によって、手間のかかりやすい場所は変わります。以下は目安で、実際は施設ごとに異なります。
| 規模の目安 | 起こりやすいこと | 最初の一歩の例 |
|---|---|---|
| 1〜19室 | 少人数で予約・接客・会計を兼務し、OTAの管理画面と紙の台帳を行き来している | 予約台帳を1か所にまとめ、在庫と料金の更新を手作業で何回しているか数える |
| 20〜199室 | フロント・清掃・調理場など部署が分かれ、情報の受け渡しに口頭や紙が残る | 清掃の指示と完了報告、客室の状況を、スマートフォンなどで共有する |
| 200室以上 | システムが部署ごとに増え、データが分散する | システム間のデータの流れを棚卸しし、部門別の収益を同じ定義で見る |
地域によって、DXの必要度は違う
同じ規模の施設でも、地域によって人手の確保のしやすさや需要の伸び方が違います。宿泊DXラボの「地域の省人化・DX検討指標」は、需要の伸び、客室稼働率、宿泊業の運営負荷、生産年齢人口の減少を、47都道府県で比べています。
たとえば、2026年10月時点のデータで、宿泊業の従業者1人あたりの年間延べ宿泊者数は、全国で約1,049人泊です。都道府県別に見ると、大阪府は約1,812人泊、佐賀県は約560人泊で、3倍以上の差があります。
- 延べ宿泊者数:2025年8月〜2026年7月
- 宿泊業の従業者数:令和6年経済センサス
この指標で総合の参考スコアが最も高かったのは青森県です。延べ宿泊者数は前年の同じ期間より14.5%増え、生産年齢人口は2019年から2024年に9.3%減っています。需要が伸びる一方で働き手が減っている地域ほど、業務の省力化を早めに検討する理由が大きくなります。
これは地域全体の参考指標で、個々の施設のDXの進み具合や導入の優先度を示すものではありません。自分の地域の値は、「地域の省人化・DX検討指標」で確認できます。
自分の施設で確かめる
自施設のどこから見直すかは、「DXかんたん診断」で確かめられます。
- 施設の基本情報と16の質問に答えると、8つのカテゴリ別のスコアが表示されます
- 優先して見直したい業務と、改善施策の例も表示されます
- 登録不要・無料で、目安は約5分です
- 入力内容に基づく自己評価で、専門家による診断ではありません
地域の統計と施設の情報を並べて、次に確認したい論点を整理したいときは、「宿泊経営の課題整理(β)」も使えます。
まとめ
- 宿泊DXは、業務のデジタル化と、データで判断する仕組みの2層で考える
- 最初は道具を選ぶ前に、手間のかかっている業務を書き出して時間を測る
- 二重入力をなくしてから、毎週見る数字を決める
- 規模と地域によって、最初の一歩は変わる