MANAGEMENT ISSUE
今回の経営課題
朝礼や月次の報告が、売上の数字から始まり、経営者の関心事で終わる。お客様の声や現場の支障は、時間が余れば触れる。報告の順序は、組織が何を本と見ているかを映します。
威后は使者に、作物、民、王の順に問いました。作物が民を支え、民が君を支える。だからこの順で問うのだ、と。使者には「順序が逆ではないか」と言われましたが、威后は譲りませんでした。
漢文原文
『戰國策』齊四「齊王使使者問趙威后」の原文
齊王使使者問趙威后。書未發,威后問使者曰:「歲亦無恙耶?民亦無恙耶?王亦無恙耶?」使者不說,曰:「臣奉使使威后,今不問王,而先問歲與民,豈先賤而後尊貴者乎?」威后曰:「不然。苟無歲,何以有民?苟無民,何以有君?故有問舍本而問末者耶?」乃進而問之曰:「齊有處士曰鍾離子,無恙耶?是其為人也,有糧者亦食,無糧者亦食;有衣者亦衣,無衣者亦衣。是助王養其民也,何以至今不業也?葉陽子無恙乎?是其為人,哀鰥寡,卹孤獨,振困窮,補不足。是助王息其民者也,何以至今不業也?北宮之女嬰兒子無恙耶?徹其環瑱,至老不嫁,以養父母。是皆率民而出於孝情者也,胡為至今不朝也?此二士弗業,一女不朝,何以王齊國,子萬民乎?於陵子仲尚存乎?是其為人也,上不臣於王,下不治其家,中不索交諸侯。此率民而出於無用者,何為至今不殺乎?」出典:『戰國策』齊四「齊王使使者問趙威后」/維基文庫固定版 2458699 原文と版情報を確認 ↗
読み下し文
趙威后、斉の使者に問うの読み下し
齊王使者をして趙の威后に問はしむ。書未だ發かざるに、威后使者に問ひて曰はく、「歲も亦恙無きか。民も亦恙無きか。王も亦恙無きか」と。使者說ばずして、曰はく、「臣使を奉じて威后に使ひす。今王を問はずして、先づ歲と民とを問ふは、豈に賤を先にして尊貴を後にする者ならんや」と。威后曰はく、「然らず。苟くも歲無くんば、何を以て民有らん。苟くも民無くんば、何を以て君有らん。故に問ふに本を舍てて末を問ふ者有らんや」と。乃ち進みて之に問ひて曰はく、「齊に處士有り鍾離子と曰ふ、恙無きか。是れ其の人と為りや、糧有る者も亦食はしめ、糧無き者も亦食はしめ、衣有る者も亦衣せしめ、衣無き者も亦衣せしむ。是れ王を助けて其の民を養ふなり。何を以て今に至りて業せざるや。葉陽子恙無きか。是れ其の人と為り、鰥寡を哀れみ、孤獨を卹み、困窮を振ひ、不足を補ふ。是れ王を助けて其の民を息はす者なり。何を以て今に至りて業せざるや。北宮の女嬰兒子恙無きか。其の環瑱を徹し、老に至るまで嫁がず、以て父母を養ふ。是れ皆民を率ゐて孝情に出づる者なり。胡為れぞ今に至りて朝せざるや。此の二士業せられず、一女朝せられず、何を以て齊國に王として、萬民を子とせんや。於陵子仲尚ほ存するか。是れ其の人と為りや、上は王に臣たらず、下は其の家を治めず、中は交はりを諸侯に索めず。此れ民を率ゐて無用に出づる者なり。何為れぞ今に至りて殺さざるや」と。
- 読み趙威后の「苟無歲,何以有民」の故事。
読み下しは、掲載した原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。漢字は原文の字体を保ち、送り仮名は歴史的仮名遣いです。訓読には異なる読み方があります。
現代語訳
趙威后、斉の使者に問うを現代の言葉で読む
斉王が使者を趙の威后に遣わした。威后は書を開く前に、使者に尋ねた。「作物は無事か。民は無事か。王は無事か。」使者は不快になって言った。「私は使命を奉じて威后のもとへ参りました。いま王を問わずに、まず作物と民を問われるのは、賤しいものを先にして尊貴なものを後にすることではありませんか。」威后は言った。「そうではない。作物がなければ、どうして民があろう。民がなければ、どうして君があろう。だから、問うのに本を捨てて末を問うことがあろうか。」そして進んで尋ねた。「斉に鍾離子という処士がいる。無事か。この人は、食糧のある者にも食べさせ、ない者にも食べさせ、衣のある者にも着せ、ない者にも着せる。これは王を助けて民を養っているのだ。なぜ今まで任用しないのか。葉陽子は無事か。この人は、やもめを哀れみ、孤独な者をいたわり、困窮した者を救い、不足を補う。これは王を助けて民を休ませているのだ。なぜ今まで任用しないのか。北宮の娘、嬰児子は無事か。耳飾りを外し、老いるまで嫁がず、父母を養っている。これは民を導いて孝の心を起こさせる者だ。なぜ今まで朝見させないのか。この二人の士を任用せず、一人の女を朝見させずに、どうして斉の国に王として、万民を子とできようか。於陵子仲はまだ生きているか。この人は、上は王に臣とならず、下は家を治めず、中は諸侯と交わりを求めない。これは民を導いて無用に向かわせる者だ。なぜ今まで殺さないのか。」
掲載した読み下し文の流れを追えるよう、平易な現代語に訳しています。現代の組織へそのまま適用するのではなく、本文の考え方を理解するための訳です。
WORDS & CONTEXT
語句と背景
趙威后(ちょうのいこう)
趙の恵文王の后。王の死後、幼い孝成王を補佐して政治を見ました。
齊王
斉王建とみられます。
歲(さい)
年の作物の実り。「無恙」は無事かという挨拶の言葉です。
鍾離子(しょうりし)・葉陽子(しょうようし)
斉の処士。ここに名が見えるだけで、ほかには伝わりません。
北宮之女嬰兒子
北宮の娘で、名が嬰児子。耳飾りを外すのは、嫁ぐ気のないことを示す所作です。
於陵子仲(おりょうしちゅう)
陳仲子。於陵に住んだ斉の清廉の士で、『孟子』滕文公下に「陳仲子豈不誠廉士哉、居於於陵」と見えます(維基文庫『孟子』滕文公下、固定版 2636985)。
業
任用して仕事を成し遂げさせること。
背景
威后は斉の国政に口を出せる立場ではありません。それでも使者を相手に、斉の人材の扱いを一人ずつ問いただします。斉の使者は、国の中で誰が何をしているかを、他国の后に知られていたことになります。
話の芯は「民が本、王は末」という考えです。これは儒家の民本思想に近く、『孟子』尽心下の「民を貴しとし、社稷之に次ぎ、君を軽しとす」(維基文庫『孟子』盡心下、固定版 2637012)と同じ方向を向いています。ただ威后の基準は、徳の高さではなく働きです。鍾離子や葉陽子は民を養うから任用せよ、北宮の娘は孝の手本になるから朝見させよ。そして於陵子仲は、どれほど清廉でも民の役に立たないから殺せ、と言います。賢者であることと、民のために働くことは別だ、という割り切りが、この話の鋭いところです。
本文の解説
賢者であることと、民のために働くことは別だ
斉王が使者を趙の威后(いこう)に遣わします。威后は書を開く前に、「作物は無事か、民は無事か、王は無事か」と尋ねます。使者が「王より先に作物と民を問うのは、順序が逆ではないか」と言うと、威后は答えます。作物がなければ民はなく、民がなければ君はない。本を捨てて末を問うことがあろうか、と。続けて威后は、斉の四人の人物について問います。民を養う鍾離子と葉陽子はなぜまだ任用しないのか、父母に孝養を尽くす北宮の娘はなぜまだ朝見させないのか、王にも仕えず家も治めず諸侯とも交わらない於陵子仲はなぜまだ殺さないのか、と(第22段)。
原文を読む
- 「歲も亦恙無きか。民も亦恙無きか。王も亦恙無きか」(第22段)――三つの問いの順序が、この話のすべてです。作物、民、王。使者が気づいたとおり、普通とは逆の順です。
- 「苟くも歲無くんば、何を以て民有らん。苟くも民無くんば、何を以て君有らん」(第22段)――威后の答えです。作物が民を支え、民が君を支える。だからこの順で問うのだ、と。
- 「問ふに本を舍てて末を問ふ者有らんや」(第22段)――本と末という言葉で、王を「末」の側に置きます。使者への答えとしては、かなり強い言い方です。
- 「是れ王を助けて其の民を養ふなり。何を以て今に至りて業せざるや」(第22段)――鍾離子と葉陽子について、同じ形の問いを二度繰り返します。民を養う者を任用しないのは、王の怠りだ、と。
- 「此れ民を率ゐて無用に出づる者なり。何為れぞ今に至りて殺さざるや」(第22段)――於陵子仲への問いです。賢者として名高い人物を、「殺さないのか」とまで言います。威后の基準は、民のために働くか否かだけです。
要点
- 趙の威后が斉の使者に、王より先に作物と民の無事を問い、「民がなければ君はない」と説いた話です。
- 威后は斉の四人の人物について、民のために働く者は任用せよ、働かない者は賢者でも殺せ、と問いただします。
- 民本の考えに立ちながら、基準を徳ではなく働きに置いているところが、この話の鋭さです。
INTERPRETATION
AI時代の経営への読み替え
ダッシュボードの一番上に何を置くか。AIが自動で作る日報も、どの項目から始めるかは人が決めます。客の満足と不満、現場の支障、そのあとに売上と利益。威后の順序で並べると、経営者が見るものが変わります。
もう一つ、威后は斉の人材を四人挙げて、民を養う者は任用せよ、民のために働かない者は賢者でも殺せ、と言いました。評判や肩書きではなく、働きで評価する。名前だけの顧問や、実績のない有名人の起用に、威后なら「なぜ今まで殺さないのか」と言うでしょう。
LODGING & TOURISM
宿泊・観光の現場例
朝礼を、前日の売上ではなく「昨日のお客様の声」と「現場で困ったこと」から始めるようにした施設では、設備の不具合や清掃の遅れが経営に届く速さが変わった、という例があります。順序を変えただけです。
一方で、名前だけのアドバイザーや、顔を出さない役員に報酬を払い続けている施設もあります。威后の基準は、民のために働いているかどうか、それだけです。
現場例は、支援内容を考えるための提案例であり、実在する顧客施設の運用実績ではありません。
TRY TOMORROW
明日から試せる問い・行動
報告の順序を、威后に合わせる
- 最初に聞くのは何か。売上なら、客と現場に入れ替える。
- 民を養っている人、つまり現場を支えている人を、きちんと任用しているか。
- 働いていない肩書きはないか。あれば、威后ならどう言うかを考える。
「本を捨てて末を問う者有らんや」。この一句を会議室に貼る手もあります。
SOURCE & NOTES
出典・版・注記
- 原文:維基文庫「戰國策 (士禮居叢書本)/齊/四」固定版 2458699(ページ、固定版、履歴)。原著(劉向 編『戰國策』)はパブリックドメイン。電子テキストの編集上の寄与は CC BY-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/)。
- 原文への変更:本文を抽出し、姚本・鮑本・札記等の注釈と注釈行を除去。策ごとの見出しをsection_titleに分離し、校記をnotesへ分離。
- 読み下し文:本データで原文から新たに作成したもので、既存の訳注書の転載ではない。状態:draft_unreviewed(未校閲)。CC BY-SA 4.0。
読み下し・現代語訳・本文解説・経営解釈:宿泊DXラボ。読み下し・現代語訳・解説は原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。古典の訓読と解釈には異なる見方があります。
編集:宿泊DXラボ。