MANAGEMENT ISSUE
今回の経営課題
好評だった季節プランに特典を足し続けて原価割れを起こす。改装がうまくいったので、さらに増築する。売れたキャンペーンを延長し、またその延長を延長する。成功の直後に、もう一つ足したくなる気持ちは、誰にでもあります。
蛇足の話の肝は、足を描いた人が、最初に蛇を描き終えていたことです。十分な成果を得たあとの一筆が、すべてを失わせました。陳軫が昭陽に言ったのも、「勝ちすぎれば身を失う」でした。
漢文原文
『戰國策』齊二「昭陽為楚伐魏」の原文
昭陽為楚伐魏,覆軍殺將得八城,移兵而攻齊。陳軫為齊王使,見昭陽,再拜賀戰勝,起而問:「楚之法,覆軍殺將,其官爵何也?」昭陽曰:「官為上柱國,爵為上執珪。」陳軫曰:「異貴於此者何也?」曰:「唯令尹耳。」陳軫曰:「令尹貴矣!王非置兩令尹也,臣竊為公譬可也。楚有祠者,賜其舍人巵酒。舍人相謂曰:『數人飲之不足,一人飲之有餘。請畫地為蛇,先成者飲酒。』一人蛇先成,引酒且飲之,乃左手持巵,右手畫蛇,曰:『吾能為之足。』未成,一人之蛇成,奪其巵曰:『蛇固無足,子安能為之足。』遂飲其酒。為蛇足者,終亡其酒。今君相楚而攻魏,破軍殺將得八城,不弱兵,欲攻齊,齊畏公甚,公以是為名居足矣,官之上非可重也。戰無不勝而不知止者,身且死,爵且後歸,猶為蛇足也。」昭陽以為然,解軍而去。出典:『戰國策』齊二「昭陽為楚伐魏」/維基文庫固定版 2458693 原文と版情報を確認 ↗
読み下し文
蛇足の読み下し
昭陽楚の為に魏を伐ち、軍を覆し將を殺して八城を得、兵を移して齊を攻む。陳軫齊王の為に使ひし、昭陽に見え、再拜して戰勝を賀し、起ちて問ふ、「楚の法、軍を覆し將を殺せば、其の官爵は何ぞや」と。昭陽曰はく、「官は上柱國と為し、爵は上執珪と為す」と。陳軫曰はく、「此より貴きを異にする者は何ぞや」と。曰はく、「唯だ令尹のみ」と。陳軫曰はく、「令尹は貴し。王は兩令尹を置くに非ざるなり。臣竊かに公の為に譬へんこと可なり。楚に祠る者有り、其の舍人に巵酒を賜ふ。舍人相謂ひて曰はく、『數人之を飲めば足らず、一人之を飲めば餘り有り。請ふ地に畫きて蛇を為り、先づ成る者酒を飲まん』と。一人蛇先づ成り、酒を引きて且に之を飲まんとし、乃ち左手に巵を持ち、右手に蛇を畫きて、曰はく、『吾能く之が足を為さん』と。未だ成らざるに、一人の蛇成り、其の巵を奪ひて曰はく、『蛇は固より足無し、子安んぞ能く之が足を為さん』と。遂に其の酒を飲む。蛇の足を為る者は、終に其の酒を亡ふ。今君楚に相たりて魏を攻め、軍を破り將を殺して八城を得、兵を弱めずして、齊を攻めんと欲す。齊公を畏るること甚だし。公是を以て名と為して居ること足れり。官の上は重ぬべきに非ざるなり。戰ひて勝たざる無くして止むるを知らざる者は、身且に死し、爵且に後に歸せんとす、猶ほ蛇の足を為すがごときなり」と。昭陽以て然りと為し、軍を解きて去る。
- 読みいわゆる「畫蛇添足(蛇足)」の故事。
読み下しは、掲載した原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。漢字は原文の字体を保ち、送り仮名は歴史的仮名遣いです。訓読には異なる読み方があります。
現代語訳
蛇足を現代の言葉で読む
昭陽は楚のために魏を攻め、敵軍を破り将を殺して八つの城を得ると、兵を移して斉を攻めようとした。陳軫は斉王の使者として昭陽に会い、再拝して戦勝を祝い、立ち上がって尋ねた。「楚の法では、敵軍を破り将を殺した者には、どのような官と爵が与えられますか。」昭陽は言った。「官は上柱国、爵は上執珪だ。」陳軫は言った。「それより尊いものは何ですか。」「令尹だけだ。」陳軫は言った。「令尹は尊い。しかし王が令尹を二人置くことはありません。私がひそかにあなたのために譬えを申し上げましょう。楚で祭りをした人が、従者たちに一杯の酒を与えました。従者たちは相談しました。『何人かで飲めば足りないが、一人で飲めば余る。地面に蛇を描いて、先に描き上げた者が飲むことにしよう。』一人が先に蛇を描き上げ、酒を引き寄せて飲もうとしましたが、左手に杯を持ったまま右手で蛇を描き続け、『私はこれに足まで描けるぞ』と言いました。描き終わらないうちに、もう一人の蛇ができあがり、その杯を奪って言いました。『蛇にはもともと足がない。どうして足を描けるものか。』そしてその酒を飲んでしまいました。蛇に足を描いた者は、結局酒を失ったのです。いまあなたは楚の宰相格として魏を攻め、軍を破り将を殺して八城を得、兵力も損なわずに、斉を攻めようとしておられる。斉はあなたをたいへん恐れています。あなたはこれを名誉として、ここで止まれば十分です。官はこれ以上積み上げられません。戦って負けることがなくても止まるところを知らない者は、やがて身は死に、爵は他人の手に帰します。蛇に足を描くのと同じです。」昭陽はそのとおりだと思い、軍を解いて引き揚げた。
掲載した読み下し文の流れを追えるよう、平易な現代語に訳しています。現代の組織へそのまま適用するのではなく、本文の考え方を理解するための訳です。
WORDS & CONTEXT
語句と背景
昭陽(しょうよう)
楚の将。この戦いは楚の懐王のころ、前4世紀末の出来事とされます。
陳軫(ちんしん)
戦国の遊説家。『戦国策』には秦・楚・斉のあいだを行き来する姿が何度も出てきます。
上柱国(じょうちゅうこく)・上執珪(じょうしつけい)
楚の最高の武官と最高の爵位。
令尹(れいいん)
楚の宰相。楚では官の最高位です。
祠る者
祭祀を行った人。祭りのあとの酒を従者(舍人)に与えています。
巵(し)
酒杯。
背景
『戦国策』は遊説家の言葉を集めた書物で、この話も陳軫が斉のために楚軍を退かせた「成功した説得」として記録されています。注目したいのは、陳軫が昭陽の「利益」から話を組み立てていることです。斉を守れとは一言も言わず、あなたにとってこれ以上の戦いは損だ、と説いています。相手の立場で損得を数える、戦国の説得の型がよく出ています。
本文の解説
勝ちすぎることの危険を、寓話で将軍に説く
楚の将軍昭陽(しょうよう)は、魏を攻めて軍を破り、将を殺し、八つの城を取りました。その勢いで今度は斉を攻めようとします。斉の使者として来た陳軫(ちんしん)は、まず戦勝を祝い、それから「楚の法では、この功績にどんな官爵が与えられますか」と尋ねます。昭陽が「上柱国、上執珪」と答えると、陳軫は「それより上は」と問い、「令尹だけだ」と答えさせたうえで、一つの譬え話を語ります。酒を分けるために蛇の絵の早描き競争をした従者たちの話――先に描き上げた者が、余裕を見せて足まで描き足しているうちに、二番目の者に杯を奪われてしまう。これ以上の官はないのに戦い続けるのは、蛇に足を描くのと同じだ、と。昭陽は納得して軍を引きました。
成語「蛇足」の出典です(第7段)。
原文を読む
- 「再拜して戰勝を賀し、起ちて問ふ」(第7段)――陳軫は斉を守りに来た使者ですが、いきなり撤兵を求めません。まず祝い、次に昭陽自身の口から「これ以上の官爵はない」と言わせます。説得の順序が計算されています。
- 「王は兩令尹を置くに非ざるなり」(第7段)――令尹は一人だけ。つまり昭陽がこれ以上手柄を立てても、報いる官位が残っていない、という急所です。
- 「吾能く之が足を為さん」(第7段)――早描き競争に勝った者の、余裕から出た一言です。勝ちが決まったあとの上乗せが、勝ちそのものを失わせます。
- 「蛇は固より足無し、子安んぞ能く之が足を為さん」(第7段)――二番目の者の反論は正論です。足のある蛇は蛇ではない、だからあなたの絵は完成していない。理屈の上でも杯は奪われます。
- 「戰ひて勝たざる無くして止むるを知らざる者は、身且に死し、爵且に後に歸せんとす」(第7段)――譬えの結論です。「爵且に後に歸す」は、爵位が結局は後の人のものになる、つまり他人に取られる、ということです。
要点
- 「蛇足」の出典はこの斉策二の一節で、楚の将昭陽に斉攻めをやめさせた陳軫の譬え話です。
- 今の用法は「余計な付け足し」ですが、原話では、十分な功を得たあとで止まれない者が、得たものまで失うことを戒めています。
- 陳軫は斉の利益ではなく昭陽自身の損得から説いており、戦国の説得の型がよく表れています。
INTERPRETATION
AI時代の経営への読み替え
AIは施策の案を無限に出します。「次にできること」のリストは、尽きることがありません。だからこそ、やめ時の判断が経営者の仕事になります。足を描き足す道具は豊富になりました。「もう足りている」と言う役は、人が担うしかありません。
施策を始めるときに、終わり方を決めておくのが一つの方法です。どの数字がどこまで行ったら終えるか。延長するなら、何を根拠に延長するか。終わりが決まっていない施策は、足を描き足しやすくなります。
LODGING & TOURISM
宿泊・観光の現場例
秋の味覚プランが好評だったので、翌年は特典に地酒を付け、その翌年は送迎を付け、気づけば採算が取れなくなった、という例があったとします。最初の年の蛇は、すでに完成していました。
改装も同じです。客室を直して評価が上がった施設が、勢いで大浴場も直し、資金繰りを悪くする。昭陽が魏を破ったあとに斉を攻めようとしたのと似ています。
現場例は、支援内容を考えるための提案例であり、実在する顧客施設の運用実績ではありません。
TRY TOMORROW
明日から試せる問い・行動
足を描いていないか、点検する
- 今年足した施策のうち、効果を測れていないものはどれか。
- その施策をやめる判断の基準は決まっているか。
- 「もう十分だ」を誰が言うか。経営者自身が言えなければ、言う役を決める。
蛇が完成した時点で筆を置く。それだけで酒は残ります。
SOURCE & NOTES
出典・版・注記
- 原文:維基文庫「戰國策 (士禮居叢書本)/齊/二」固定版 2458693(ページ、固定版、履歴)。原著(劉向 編『戰國策』)はパブリックドメイン。電子テキストの編集上の寄与は CC BY-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/)。
- 原文への変更:本文を抽出し、姚本・鮑本・札記等の注釈と注釈行を除去。策ごとの見出しをsection_titleに分離し、校記をnotesへ分離。
- 読み下し文:本データで原文から新たに作成したもので、既存の訳注書の転載ではない。状態:draft_unreviewed(未校閲)。CC BY-SA 4.0。
読み下し・現代語訳・本文解説・経営解釈:宿泊DXラボ。読み下し・現代語訳・解説は原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。古典の訓読と解釈には異なる見方があります。
編集:宿泊DXラボ。