MANAGEMENT ISSUE

今回の経営課題

AI利用のルールを作った経営者が、自分だけ例外的に顧客情報を入力する。採用基準を定めた経営者が、親族や知人の紹介で基準を外す。発注の手順を決めた経営者が、知り合いの業者に相見積もりなしで頼む。ルールは、作った人が最初に破ります。

申不害は「功労に従い、序列を見よ」と昭侯に教えた人です。その申不害が従兄の任用を頼み、昭侯に「どちらを聞けばよいのか」と問われて、席を外して罪を請いました。

漢文原文

『戰國策』韓一「申子請仕其從兄官」の原文

申子請仕其從兄官,昭侯不許也。申子有怨色。昭侯曰:「非所謂學於子者也。聽子之謁,而廢子之道乎?又亡其行子之術,而廢子之謁乎?子嘗教寡人循功勞,視次第。今有所求,此我將奚聽乎?」申子乃辟舍請罪,曰:「君真其人也!」

出典:『戰國策』韓一「申子請仕其從兄官」/維基文庫固定版 2458671 原文と版情報を確認 ↗

読み下し文

申子、従兄の任用を請うの読み下し

申子其の從兄を官に仕へしめんことを請ふ。昭侯許さざるなり。申子怨色有り。昭侯曰はく、「子に學ぶと謂ふ所の者に非ざるなり。子の謁を聽きて、子の道を廢せんか。又亡其れ、子の術を行ひて、子の謁を廢せんか。子嘗て寡人に教へて功勞に循ひ、次第を視よ、と。今求むる所有り、此れ我將に奚れを聽かんとするか」と。申子乃ち舍を辟けて罪を請ひ、曰はく、「君は真に其の人なり」と。

  • 読み申不害が自らの術で韓の昭侯に縁故任用を拒まれた故事。
  • 読み「亡其」は「抑其」と同じく、「あるいは」の意。

読み下しは、掲載した原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。漢字は原文の字体を保ち、送り仮名は歴史的仮名遣いです。訓読には異なる読み方があります。

現代語訳

申子、従兄の任用を請うを現代の言葉で読む

申子が自分の従兄を官に仕えさせてほしいと頼んだ。昭侯は許さなかった。申子は不満の顔をした。昭侯は言った。「これは、あなたから学んだと言うことではないか。あなたの頼みを聞いて、あなたの道を捨てようか。それとも、あなたの術を行って、あなたの頼みを退けようか。あなたはかつて私に教えた。功労に従い、序列を見よ、と。いまあなたは頼みごとをしている。私はどちらを聞けばよいのか。」申子は席を外して罪を請い、言った。「あなたは本当にその人です。」

掲載した読み下し文の流れを追えるよう、平易な現代語に訳しています。現代の組織へそのまま適用するのではなく、本文の考え方を理解するための訳です。

WORDS & CONTEXT

語句と背景

申子(しんし)

申不害(しんふがい)。韓の昭侯の宰相で、「術」を説いた法家の思想家。『韓非子』はその学説を批判的に継承しています(定法篇、本データ hanfeizi/c43)。

昭侯(しょうこう)

韓の昭侯。申不害を用いて国を治めました。

謁(えつ)

頼みごと、請願。

亡其(ぼうき)

「あるいは」の意。「抑其」と同じ用法で、本データの読み下しの注にも記しています。

功勞に循ひ、次第を視よ

功績に従い、序列を見て任用せよ。申不害の術の中心です。

背景

申不害は「術」、つまり君主が臣下を操る技術を説いた人です。その中心は、功績に応じて任用し、君主の好みや臣下の縁故で官を与えないことでした。ところがその申不害が、自分の従兄のために縁故任用を頼みます。昭侯はそれを、申不害の教えそのもので退けました。教えた者が、自分の教えによって断られる。『戦国策』の中でもとくに皮肉の効いた話です。

『韓非子』はこの話を外儲説左上にも載せています(本データ hanfeizi/c32 第59段)。あちらでは、昭侯が「法度は行いにくい」と言い、申子が「法は功を見て賞を与え、能に因って官を授けるもので、君が左右の請いを聞くから行いにくいのだ」と答え、昭侯が「今後は法を行う」と誓った直後に、申子自身が従兄の任用を頼む、という形になっています。自分で説いた原則を自分で破る申子の弱さが、より強く出ています。『戦国策』の方は、申子の「君は真にその人だ」という言葉で終わり、昭侯の側を称えています。同じ話が、一方では申不害の弱さの例に、一方では昭侯の見事さの例になっているのです。

本文の解説

教えた者が、自分の教えによって断られる

申子(申不害)が従兄を官に就けてほしいと韓の昭侯に頼みますが、昭侯は許しません。申子が不満の顔をすると、昭侯は言います。「これはあなたから学んだことではないか。あなたの頼みを聞いてあなたの道を捨てるか、あなたの術を行ってあなたの頼みを退けるか。あなたは私に、功労に従い、序列を見よと教えた。いまあなたが頼んでいる。私はどちらを聞けばよいのか。」申子は席を外して罪を請い、「あなたは本当にその人です」と言いました(第4段)。

原文を読む

  • 「申子怨色有り」(第4段)――法術を説いた申不害が、身内の縁故を頼んで断られ、不満の顔をします。この一句が、話の皮肉の出発点です。
  • 「子の謁を聽きて、子の道を廢せんか。又亡其れ、子の術を行ひて、子の謁を廢せんか」(第4段)――昭侯の問いです。申子の頼みと申子の術は両立しない。どちらを捨てるか、と申子自身に選ばせます。
  • 「子嘗て寡人に教へて功勞に循ひ、次第を視よ、と」(第4段)――申子が教えたことの中身です。功労によって任用し、序列に従え。縁故で官を与えることは、まさにこれに反します。
  • 「君は真に其の人なり」(第4段)――申子の答えです。弁解も反論もせず、昭侯が自分の教えを本当に実行する人だと認めます。

要点

  • 術を説いた申不害が従兄の縁故任用を頼み、韓の昭侯に「あなたの教えに従うか、あなたの頼みに従うか」と退けられた話です。
  • 教えた者が自分の教えによって断られる、という皮肉が話の芯です。申子は弁解せず「あなたは本当にその人だ」と認めます。
  • 同じ話が『韓非子』外儲説左上にもあり、そちらは昭侯に法を説いた直後に申子自身が破る形で、申不害の弱さがより強く出ています。

INTERPRETATION

AI時代の経営への読み替え

AI利用のルール、情報の入力禁止、公開前の確認手順。こうしたルールは、経営者自身が守っているかどうかで現場の守り方が決まります。「社長は入れているのに」という一言で、ルールは形骸化します。

昭侯の答え方も学べます。申子を責めず、「あなたの頼みを聞いてあなたの道を捨てるか、あなたの術を行ってあなたの頼みを退けるか」と、申子自身に選ばせました。経営者が自分のルールを破りそうなとき、この問いを投げ返してくれる人が社内にいるかどうかです。

LODGING & TOURISM

宿泊・観光の現場例

親族を採用したい、長年の知人の会社に改修を任せたい、自分はAIに何でも入力したい。どれも、決めたルールの例外を経営者が求める場面です。例外を認めるなら、ルールを変える。変えないなら、例外を認めない。中間はありません。

昭侯の役を番頭や顧問が担い、「それは社長が決めたルールに反します」と言える施設は、ルールが生きています。

現場例は、支援内容を考えるための提案例であり、実在する顧客施設の運用実績ではありません。

TRY TOMORROW

明日から試せる問い・行動

自分の謁を、点検する

  1. この一年で、自分が例外を求めたルールは何か。
  2. 昭侯の役を、誰がしてくれるか。「あなたの教えに従うか」と言ってくれる人。
  3. 「君は真にその人だ」と言われる判断を、次はできるか。

申子は弁解しませんでした。経営者も、言われたときに席を外せるかどうかです。

SOURCE & NOTES

出典・版・注記

  • 原文:維基文庫「戰國策 (士禮居叢書本)/韓/一」固定版 2458671(ページ、固定版、履歴)。原著(劉向 編『戰國策』)はパブリックドメイン。電子テキストの編集上の寄与は CC BY-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/)。
  • 原文への変更:本文を抽出し、姚本・鮑本・札記等の注釈と注釈行を除去。策ごとの見出しをsection_titleに分離し、校記をnotesへ分離。
  • 読み下し文:本データで原文から新たに作成したもので、既存の訳注書の転載ではない。状態:draft_unreviewed(未校閲)。CC BY-SA 4.0。

読み下し・現代語訳・本文解説・経営解釈:宿泊DXラボ。読み下し・現代語訳・解説は原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。古典の訓読と解釈には異なる見方があります。

編集:宿泊DXラボ。