MANAGEMENT ISSUE

今回の経営課題

元ホテルマンが清掃をしている。語学のできる人がフロントで電話番だけをしている。料理のできる人が配膳だけを任されている。人手不足の中で、持っている力と違う仕事に就いている人は、どの施設にもいます。

汗明の話の名馬は、塩の荷車を引いて坂を上れずにいました。伯楽が見つけて泣き、自分の衣を掛けると、名馬は天まで届く声で鳴きました。「自分を知る者に会ったから」です。

漢文原文

『戰國策』楚四「汗明見春申君」の原文

汗明見春申君,候問三月,而後得見。談卒,春申君大說之。汗明欲復談,春申君曰:「僕已知先生,先生大息矣。」汗明憱焉曰:「明願有問君而恐固。不審君之聖,孰與堯也?」春申君曰:「先生過矣,臣何足以當堯?」汗明曰:「然則君料臣孰與舜?」春申君曰:「先生即舜也。」汗明曰:「不然,臣請為君終言之。君之賢實不如堯,臣之能不及舜。夫以賢舜事聖堯,三年而後乃相知也。今君一時而知臣,是君聖於堯而臣賢於舜也。」春申君曰:「善。」召門吏為汗先生著客籍,五日一見。汗明曰:「君亦聞驥乎?夫驥之齒至矣,服鹽車而上太行。蹄申膝折,尾湛胕潰,漉汁灑地,白汗交流,中阪遷延,負轅不能上。伯樂遭之,下車攀而哭之,解紵衣以羃之。驥於是俛而噴,仰而鳴,聲達於天,若出金石聲者,何也?彼見伯樂之知己也。今僕之不肖,阨於州部,堀穴窮巷,沈洿鄙俗之日久矣,君獨無意湔拔僕也,使得為君高鳴屈於梁乎?」

出典:『戰國策』楚四「汗明見春申君」/維基文庫固定版 2458639 原文と版情報を確認 ↗

読み下し文

驥、鹽車に服すの読み下し

第20段

汗明春申君に見えんとし、候問すること三月にして、而る後に見ゆるを得たり。談卒はりて、春申君大いに之を說ぶ。汗明復た談ぜんと欲す。春申君曰はく、「僕已に先生を知る。先生大いに息へ」と。汗明憱焉として曰はく、「明願はくは君に問ふ有らんとするも固なるを恐る。審らかにせず、君の聖は、堯と孰れぞ」と。春申君曰はく、「先生過てり。臣何ぞ以て堯に當たるに足らん」と。汗明曰はく、「然らば則ち君臣を料るに舜と孰れぞ」と。春申君曰はく、「先生は即ち舜なり」と。汗明曰はく、「然らず。臣請ふ君の為に終に之を言はん。君の賢は實に堯に如かず、臣の能は舜に及ばず。夫れ賢舜を以て聖堯に事へ、三年にして後に乃ち相知るなり。今君一時にして臣を知る、是れ君堯より聖にして臣舜より賢なるなり」と。春申君曰はく、「善し」と。門吏を召して汗先生の為に客籍に著し、五日に一たび見ゆ。

第21段

汗明曰はく、「君も亦驥を聞くか。夫れ驥の齒至り、鹽車に服して太行に上る。蹄申び膝折れ、尾湛り胕潰え、漉汁地に灑ぎ、白汗交々流れ、中阪にして遷延し、轅を負ひて上ること能はず。伯樂之に遭ひ、車を下りて攀りて之に哭し、紵衣を解きて以て之に羃す。驥是に於いて俛して噴き、仰ぎて鳴き、聲天に達し、金石の聲より出づるが若き者は、何ぞや。彼伯樂の己を知るを見ればなり。今僕の不肖、州部に阨し、堀穴窮巷、鄙俗に沈洿するの日久し。君獨り僕を湔拔するに意無からんや。君の為に高鳴して梁に屈するを得しめんか」と。

第20段の注

  • 読みいわゆる「驥服鹽車(驥、鹽車に服す)」の故事。

読み下しは、掲載した原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。漢字は原文の字体を保ち、送り仮名は歴史的仮名遣いです。訓読には異なる読み方があります。

現代語訳

驥、鹽車に服すを現代の言葉で読む

汗明は春申君に面会を求め、三か月伺候して、やっと会うことができた。話が終わると、春申君は大いに喜んだ。汗明はもう一度話そうとした。春申君は言った。「私はもう先生のことが分かりました。先生はゆっくり休んでください。」汗明はしゅんとして言った。「お尋ねしたいことがあるのですが、愚かに思われないかと恐れます。はっきりしないのですが、あなたの聖は、堯と比べてどちらですか。」春申君は言った。「先生は誤っておられる。私がどうして堯に当たりましょうか。」汗明は言った。「それでは、あなたは私を舜と比べてどちらとお考えですか。」春申君は言った。「先生はまさに舜です。」汗明は言った。「違います。終わりまで言わせてください。あなたの賢は実のところ堯に及ばず、私の能は舜に及びません。あの賢い舜が聖なる堯に仕えて、三年たってようやく互いに分かり合ったのです。いまあなたは一度で私を分かったという。それならあなたは堯より聖で、私は舜より賢いことになります。」春申君は言った。「そのとおりだ。」門吏を召して、汗先生を客籍に記させ、五日に一度会うことにした。(第20段)

汗明は言った。「あなたも驥のことを聞いておられるでしょう。驥が年老いて、塩の車を引いて太行山を上りました。蹄は伸び膝は折れ、尾は垂れ、足は崩れ、汁は地に滴り、白い汗が流れ、坂の途中でよろめき、轅を背負って上れませんでした。伯楽がこれに出会い、車を下りてすがりついて泣き、麻の上衣を脱いで掛けました。驥はそこで、下を向いて鼻を鳴らし、上を向いて鳴き、その声は天に届き、金石の響きのようでした。なぜでしょう。伯楽が自分を知ってくれたと分かったからです。いま私は不肖で、田舎の役所で行き詰まり、穴のような狭い路地、卑俗の中に沈んで長くなります。あなたは私を洗い上げて引き出してくださるお気持ちはないでしょうか。あなたのために高く鳴いて、梁の屋根の下で働かせてくださいませんか。」(第21段)

掲載した読み下し文の流れを追えるよう、平易な現代語に訳しています。現代の組織へそのまま適用するのではなく、本文の考え方を理解するための訳です。

WORDS & CONTEXT

語句と背景

汗明(かんめい)

楚の士。この話にのみ名が見えます。

春申君(しゅんしんくん)

黄歇(こうけつ)。楚の宰相で、『史記』に春申君列伝があります(維基文庫『史記』巻七十八、固定版 2089016)。

堯・舜

伝説上の聖天子。舜は堯に仕え、のちに位を譲られたとされます。

驥(き)

一日に千里を走るとされる名馬。

鹽車(えんしゃ)

塩を運ぶ荷車。重い荷の代表です。

太行(たいこう)

太行山。山西と河北の間の険しい山です。

伯樂(はくらく)

馬の鑑定の名人。

紵衣(ちょい)

麻の衣。伯楽が自分の衣を馬に掛ける所作が、名馬への敬意を表します。

州部・堀穴窮巷

地方の役所、穴のような狭い路地。汗明の境遇をいう言葉です。

背景

戦国時代の遊説の士にとって、権力者に「知られる」ことがすべてでした。汗明は三か月待って面会を得ましたが、一度の話で終わりにされそうになります。そこで彼は、堯と舜でさえ三年かかったと言って、自分を知るにはもっと時間がかかると認めさせ、続いて驥と伯楽の譬えで「知る者」の意味を語ります。

驥が塩車を引くという場面は、才能のある者が低い仕事に埋もれていることの譬えとして、後の詩文によく引かれました。伯楽が泣いて衣を掛ける、驥が天に届く声で鳴く。この場面の美しさが、汗明の自己推薦を単なる売り込みではないものにしています。

本文の解説

名馬が鳴いたのは、自分を知る者に会ったから

汗明(かんめい)は楚の春申君(しゅんしんくん)に会うため三か月待ち、ようやく面会して話が弾みます。春申君が「もう先生のことは分かった」と切り上げようとすると、汗明は「あなたは堯と比べてどうか」「私を舜と比べてどうか」と問い、春申君が謙遜すると、「賢い舜が聖なる堯に仕えても、互いに分かり合うのに三年かかった。あなたが一度の面会で私を分かったというなら、あなたは堯より聖で、私は舜より賢いことになる」と言います。春申君は納得し、客として登録して五日に一度会うことにします(第20段)。汗明はさらに、名馬の驥(き)が老いて塩の荷車を引き、太行山の坂を上れずにいたところを、伯楽(はくらく)が見つけて泣き、自分の衣を掛けた。驥が天まで届く声で鳴いたのは、自分を知る者に会ったからだ、と語り、「私は長く田舎に埋もれている。あなたは私を引き上げてくださるお気持ちはないか」と訴えます(第21段)。

「驥服塩車」の出典です。

原文を読む

  • 「候問すること三月にして、而る後に見ゆるを得たり」(第20段)――三か月待ってやっと会える。話の前提になる、この待ち時間の長さが、汗明の最後の訴えに重みを与えています。
  • 「僕已に先生を知る。先生大いに息へ」(第20段)――春申君の言葉はねぎらいです。しかし汗明にとっては、三か月待った末の面会を一度で終わりにされることでした。
  • 「夫れ賢舜を以て聖堯に事へ、三年にして後に乃ち相知るなり」(第20段)――堯と舜でさえ三年かかった。「一度で分かった」と言うのは、堯以上だと言うことになる。春申君の謙遜を使って、「まだ分かっていない」と言わせる論法です。
  • 「蹄申び膝折れ、尾湛り胕潰え、漉汁地に灑ぎ、白汗交々流れ」(第21段)――老いた名馬の苦しみを、短い句を重ねて描きます。
  • 「彼伯樂の己を知るを見ればなり」(第21段)――驥が鳴いた理由です。知られることが、名馬にとって何より大きい、と。
  • 「君獨り僕を湔拔するに意無からんや」(第21段)――譬えの後の直接の訴えです。自分を驥、春申君を伯楽に重ねています。

要点

  • 三か月待って春申君に会った汗明が、一度で切り上げられそうになり、堯舜の譬えで面会を続けさせ、驥と伯楽の譬えで登用を訴えた話です。「驥服塩車」の出典です。
  • 堯と舜でさえ三年かかったのに一度で分かったと言うなら、あなたは堯以上だ、という論法で、相手の謙遜を利用しています。
  • 老いた名馬が塩車を引き、伯楽に見出されて鳴く場面は、埋もれた才能の譬えとして後世よく引かれました。

INTERPRETATION

AI時代の経営への読み替え

AIは作業を減らします。しかし誰が何を得意かを知るのは、人の仕事です。履歴書や勤怠データを分析しても、「知られた」と本人が感じる瞬間は作れません。伯楽の役は、経営者か、現場の責任者が担うしかありません。

汗明は三か月待たされました。面談を先延ばしにされている人、提案を聞いてもらえない人は、塩車を引き続けています。「知られる」ことが人を鳴かせるなら、知ろうとする時間を取ることが、最も安い人材投資です。

LODGING & TOURISM

宿泊・観光の現場例

清掃スタッフの中に元ホテルの宴会担当がいると知った支配人が、婚礼や宴会の立ち上げを任せて成果を出した、という例があります。本人は何年も黙って塩車を引いていました。

逆に、採用面接で三か月待たせ、よい人を他社に取られる施設もあります。「候問すること三月」は、戦国時代だけの話ではありません。

現場例は、支援内容を考えるための提案例であり、実在する顧客施設の運用実績ではありません。

TRY TOMORROW

明日から試せる問い・行動

伯楽の目で、現場を見る

  1. 今の仕事と違う力を持っている人は誰か。全員の経歴を、もう一度読む。
  2. その人に、声をかけたか。「あなたの力を知っている」と伝えたか。
  3. 面談や返事を待たせている人はいないか。いれば、今週中に会う。

衣を掛けるだけで鳴く馬が、塩車を引いているかもしれません。

SOURCE & NOTES

出典・版・注記

  • 原文:維基文庫「戰國策 (士禮居叢書本)/楚/四」固定版 2458639(ページ、固定版、履歴)。原著(劉向 編『戰國策』)はパブリックドメイン。電子テキストの編集上の寄与は CC BY-SA 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/)。
  • 原文への変更:本文を抽出し、姚本・鮑本・札記等の注釈と注釈行を除去。策ごとの見出しをsection_titleに分離し、校記をnotesへ分離。
  • 読み下し文:本データで原文から新たに作成したもので、既存の訳注書の転載ではない。状態:draft_unreviewed(未校閲)。CC BY-SA 4.0。

読み下し・現代語訳・本文解説・経営解釈:宿泊DXラボ。読み下し・現代語訳・解説は原文から新たに作成した下書きで、校閲前のものです。古典の訓読と解釈には異なる見方があります。

編集:宿泊DXラボ。